『 きみの名は ― (2) ― 』
ぶっぶ〜〜〜〜
バスは実に呑気な音を立てて 駅前のロータリーを出ていった。
「 ・・・ ひえ ・・・ 今でもこ〜ゆ〜バスってあるのか ・・・ 」
山内タクヤは オシリの下でぼこぼこしているスプリングを気にしつつ座席に座っていた。
「 う〜〜〜 ・・・ めんどい〜〜 けど。 やっぱお礼だもんな〜
送っちゃシツレイってことだし ・・・ 」
ふう ・・・ ちょいとため息を吐き 彼は膨らんだバッグを引き寄せた。
ぶっぶ〜〜〜〜 ゆれますのでごちゅういくださ〜い
録音テープが高声で告げた。
「 へいへい ・・ うわっち〜〜 」
がっこ〜〜ん〜〜 バスは大きく左右に傾く。
「 すっげ・・・ あ いい景色じゃん 」
窓から外に目を向ければ ぼうぼうと伸び放題の木々の向こうから水色の海面が見えてきた。
冬だというのに 水面はきらきらと輝き なんだか潮風も車内まで入ってきた気分だ。
・・・ お 泳ぎたい ・・・ !
彼は意味もなく無性にワクワクしてきてしまった。
「 おっとぉ〜〜 そうだった そうだった! フランの家って海の側なんだよな。 お・・・? 」
ぶっぶ〜〜 ・・・ 大きくカーブを切ると右側には 大海原がもっと間近に見える。
「 ・・・ ひぇ〜〜 サーファー とかが来るとこでね〜のかよ〜 うひゃあ 」
タクヤはちっちゃな子供みたいに窓にへばり付く。
残念ながら? サーフボードは浮かんでいなかったが 冬の陽を受けきらきら輝く海は
十分に魅力的でワカモノでなくてもわくわくするのだ。
「 すっげ ・・・ こんなトコに住んでるんだっけか 」
この前は 駅前から イケメン旦那 ( タクヤ曰く )
の車に乗せてもらい、 あっというまに着いた感覚だった。
というか
肩と首の痛みで 正直座っているのも辛かったので なにも覚えていないのだ。
― ただ 車から 介助されつつ降りた時 さっと流れてきた潮の香りに気がついただけだった。
≪ ♪♪
岬入り口〜〜 岬入り口〜〜 お降りの方は〜〜 ≫
妙に陽気な録音テープの音声が流れてきた。
「 ん? ・・・ お〜っと ここだ ここだ
」
ぴんぽ〜ん ・・・ タクヤは のんびりバスを降りた。
「 うわあ ― リゾート地 かよ〜〜 」
さて どっちだっけ、と彼はしばらくきょろきょろしていたが 小さな看板をみつけた。
「 そうそう・・・ そんなこと、言ってたっけ ・・・ 」
車道から外れてなんとか舗装だけはしてある細い道の方にやってきた が。
― げ。 こ これ 登るわけ??
ギルモア研究所
と 小さな看板が立つ坂道の前で 彼は絶句してしまった。
目の前には 延々と急勾配の道がガ〜〜〜っと聳え立って? いるのだった。
「 ひ〜ぇ〜〜 うっそだろ〜〜〜 リフトとかね〜のかよ〜〜 」
燦々と輝く冬の陽を受け 山内タクヤは坂の下で呆然と立ち尽くした。
そんな彼の頭上をカモメが一羽 つい・・っと横切っていった。
ふは〜〜〜〜 ・・・・ 溜息をつき。 ふっ! 大きく深呼吸をすると。
「 お〜〜し! 行くぞ〜〜〜〜〜 」
青年は膨らんだバッグを抱え直し ― ガシガシ大股で急坂を上り始めた。
かの憧れの女性 ( ひと ) の家へ ― 今日の訪問はちゃんと知らせてある。
ことの起こり? は数日前のこと。
≪ ええ ?? ・・・
んまあ〜 アンタ それで治療して頂いたの? ≫
電話の向こうで 母の声は一段と高まった。
「 ああ。 」
タクヤはちょいと顔をしかめ 電話を顔から遠ざける。
≪ その・・・ その方のお父様に? ≫
「 あ うん。
なんかさ〜 すっげ〜名医だよ〜 」
≪ へえ ・・・ 有名なお医者さんなの? ≫
「 い〜や 開業とかしてね〜し ・・・ けど ウデは最高だよ〜〜
ホントこ〜んなにすっきり治った怪我ってさ〜 初めてさ。 痛みなんかすぐ消えたし。
そんでもって な〜んか前よか調子 いいし〜 」
≪ じゃ 高かったでしょ? ≫
「 へ?
なにが 」
≪ だから〜〜〜 お金、費用よ 治療費! ≫
「 あ〜〜。 いらね〜って。 」
≪ いらない?? だって病院なんでしょ? ≫
「 あ ちがうんだ、その人のウチで さ。 そんで ムスメの不注意ですからって
」
≪! だめよ〜〜 そんな! ≫
「 ・・・ けどぉ 〜〜 」
≪ う〜〜ん ・・・ じゃ ! 御礼 持って行って! ≫
「 おれい?? 」
≪ そうよ! 母さん すぐに送るから。 いいね! ≫
「 え … 母さん 直接彼女んちに送ってくれよ〜 住所 言うからさ〜 」
≪ だめです! 直接お持ちしてきちんと御礼 してきなさい。
母さん、
アンタを礼儀知らずになんか育てていないからね! ≫
「 え 〜〜〜 めんど ・・・ 」
≪ タクヤ! ≫
「 … へ〜い〜 」
久々 チビの頃みたいにアタマごなしに叱られてしまった。
そして ― 翌翌日 どごん、と宅急便でやってきたのである。
そう。
干し芋 の山が。
「 しぇ〜〜 これを 持って行けってのかよ〜 この俺様に〜〜〜〜 」
宅急便の箱の前で タクヤはただただ呆然としてしまった。
「 そりゃ ・・・ これは美味い。 特に地元のヤツはそこいらの輸入物とは
比べモノになんね〜よ、味だって歯触りだって さ。 けど なあ〜〜
フランがさ〜 あのオヤジさんが − これ喰うかっての 」
う〜〜〜ん ・・・ どうしても干し芋とパリジェンヌ、 そして 奇跡の名医 とは
結びつかない。
「 ・・・ フケたらウチの母親 〜 おっかね〜もんな ・・・
しょ〜もねっ 持ってく か。 世話になったのは事実だし 」
ガサガサ・・・ 山ほどの干し芋の袋をともかくまとめてバッグに押し込んだ。
「 重くね〜けど嵩張るなあ〜 ま 俺もガキの頃から好きだったし
あ すばる! あいつ きっと好きだぜ〜〜〜 すぴかはどうかな? 」
かの女性 ( ひと ) の子供たちの顔を 彼はほんわか思い浮かべる。
特に なんの先入観?も情報もなく知りあったすばるは 他人とは思えない。
「 あいつ〜〜 なんかカワイイんだよなあ〜 甥っこってあんな感じかもな〜 」
よいしょ・・っとバッグをもってみる。
「 ・・・ はやいとこ、もってゆこ。 え〜〜 ・・・ 一応 電話するべき だよな?
フランって ラインとかやってね〜し・・・ 自宅の電話は聞いてるけど〜〜
あの旦那が出る確率、高い ・・・ う〜〜 ! 」
うだうだ・ぐだぐだしているのは彼の性に合わない。
タクヤは えいや! とばかりに電話を取りだし ―
「 ・・・・ ! あ〜〜〜 ぎ ぎるもあさんのオタクですかあ〜
あ! フラン〜〜〜 俺! 俺〜〜〜 タクヤ、山内タクヤ! 」
密かに想いを寄せる・彼女自身が電話に出てきたので 彼は一瞬にして満面の笑顔になった。
「 〜〜〜 あ〜〜〜 うん そ〜なんだけどぉ お袋が さ。 え?
あ〜 俺の母親がね 御礼しろ! って。 そんでぇ〜〜 ギルモア先生の御都合を
うかがいたいと思いまして〜〜 」
電話の向こうでは かの女性 ( ひと ) が 笑いをかみ殺すのに苦労している。
「 え? なに?? ・・・ だってさ〜 < 礼儀知らずに育てた覚えはないからね! > ってさ〜〜
お袋がどなるし〜〜 いや 俺もさ ギルモア先生に御礼したいし 」
彼女は 気をつかわなくていいのよ、と言いつつも嬉しそうだ。
「 で〜〜 次の日曜 ・・・ あ。 先生はございたくですか。 では〜〜
午後1時頃にうかがいます。 ・・・ って伝えてくれる? 」
ありがとう! ころころ笑って彼女は静かに電話をきった。
「 ― ふは〜〜〜〜〜〜 ・・・・ 使いなれんこと 言って舌噛みそうだった〜〜
と ともかく! あとは実行あるのみ さ! 」
― そんなこんな経緯で とある早春の日曜日、山内タクヤは
崖っ淵の建つちょっと古びた洋館 ・ ギルモア邸 を訪ねてきたのである。
ざ ざ ざ ・・・ざ
「 ! つ 着いた! ふぁ〜〜〜〜 ・・・
うわあ〜〜〜 すっげ〜〜眺めだなあ〜〜〜 お〜〜〜 冬の海もいいぜ〜〜 」
彼は辿り付いた門の前で 右側の眼下に広がる海原に思わず見とれてしまった。
天気のよい午後、 早春の海は光のカケラを水面いっぱいに浮かべている。
「 うっは ・・・ 目 チカチカする〜〜 ・・・ ほえ〜〜〜 」
元気な青少年、坂道くらいで息が上がったりはしていないけれど
やはりほっと一息 ― 大きく深呼吸をした。
「 ・・・ っと。 それでは っと。 」
ダウン ・ ジャケットをひっぱり、マフラーを巻き直し。
大きなバッグをもちなおし、 さささ・・・ と手で髪を整える。
「 おし。 えっと ・・・ ? あ そうだった、 門は勝手に開けて
入って・・って言ってたっけな〜〜 」
彼は目の前のごくありふれた門扉を押してみた。
キ ・・・ ほんの僅か音がして 低い門が開いた。
門の内側には慎ましい庭が広がっていた。
「 ふうん? へ〜〜〜 花いっぱいな庭だな〜〜 なんか ・・・ いいかも。
そっか〜〜 フランって花とか好きだもんなあ ・・ あ みかんの木だ!
いや ミカンにしてはでかいなあ? 」
庭を横目に 玄関の前まで続く小路を通る。
「 え〜〜 っと? あ コレだ。 ぴんぽ〜〜〜ん ・・・っと 」
ごく普通のドアの ごく当たり前のインターフォンのボタンを押すと
( ドアは特殊合金製でバズーカ砲もへっちゃら、インターフォンは透視機能ありな
特製 ・・・ とは 知る人ぞ知る、この邸の一面なのだ )
≪ は〜〜い いらっしゃい〜〜〜 タクヤくん♪ ≫
すぐに 聞きなれた優しい声がした。
パタパタ ・・・ 軽い足音が聞こえ
「 いらっしゃいませ〜〜〜 お待ちしてたのよ〜〜 嬉しいわ 」
かの女性 ( ひと ) が 満面の笑みでドアを開けてくれた。
「 あ は。 あ〜〜 おはよ〜ございます〜〜 」
タクヤは柄にもなく? 上がってしまい 頬を赤くして深々とアタマをさげた。
「 はい おはようございま〜す。 さあ 上がって あがって〜〜 」
「 あ う うん ・・・ え〜〜 オジャマしま〜す 」
「 どうぞ? 」
「 あ ・・・ はい。 あれ? 今日は チビ・・いや すばるクンと
え〜と・・・すぴかちゃんは 」
「 いるわよ〜〜 今ね、 お父さんと買い物に行ってるの。
もうすぐ帰ってくるわ 煩いわよ〜〜〜 」
「 い いや その ・・・ 」
「 はいこっちへどうぞ? あ この前来てるからわかるわよね。 」
「 え いや ・・・ この前はその あんまり 」
「 ああ そうよねえ すぐに研究・・・いえ 診察室に入ったんだったわよね。
ねえ 肩・・・ 本当にもう大丈夫なの? 」
「 お〜〜 ばっちし♪ いやあ〜〜 前よか調子いいだ 俺。 」
「 まあ そうなの? よかった ・・・ さあどうぞ どうぞ。 」
タクヤは 陽射しいっぱいのリビングに入った。
「 やあ〜 いらっしゃい。 」
奥から チェックのセーターを着た老人が ゆったりと出てきた。
「 あ こんにちは。 え〜〜 先日は大変お世話になりました。 」
タクヤはぴしっ! と姿勢を正すと、きっちり最敬礼をした。
ふわ〜〜ん ・・・ いい香の湯気がリビングにゆらゆら立ち上る。
「 さあさ どうぞ? このジャム、紅茶に入れてみて? 」
「 あ はい ・・・ 」
タクヤはソファに少々ぎこちない恰好で座っている。
「 うふふ・・・ 美味しそうなオヤツは 子供たちが戻ったら頂きましょう。
ね 焼き加減とか教えてね。 」
「 あ うん。 皆さんでどうぞ。 」
「 ありがとう〜〜〜 おイモって大好き♪ 」
「 いやあ〜〜 さすがに若いヒトの回復力はすごいのう〜〜 」
「 え いえ・・・・ 先生の治療がスゴイです。
俺、 あ いえ 僕、今まででこんなにすっきり早く治ったのって初めてです。 」
「 おや そんなに怪我しているのかな。 」
「 え〜 身体使うことですから ・・・ どうしても仕方ないです。 」
「 ダンサーの人は 身体を酷使するのう。 スポーツ選手は種目によって使う筋肉やら
使う方向が決まってくるが ・・・ きみ達は全てが必要じゃからな。 」
「 え そうですか? 」
「 そうじゃよ。 ジャンプにしても 大きく跳ぶ、小さく速く跳ぶ。
空中に上げた脚をキープし ・・・ あまつさえ回転するのじゃからな〜〜 」
「 あ〜〜 そう言われれば・・・ 」
「 うむ うむ ― 本当に大事に至らんでよかったよ。
フランソワーズの不注意で ・・・ 申し訳なかったです。 」
博士はきっちりとアタマを下げた。
「 え! そ そんな〜〜〜 止めてください、先生。
俺 いえ 僕の方こそ〜〜 もうすっきり! ってか 前より調子いいんです。 」
「 それはよかった・・・ 傷痕も目立たなくなったようだね。 」
「 え〜〜 傷ってもう見えないですよ? だってそんなに切れたわけじゃないし。 」
ほら・・・ と タクヤはトレーナーの襟を引っぱり首筋と肩を見せた。
「 痣もすぐに消えました。 ホント、びっくりです。 」
「 いやいや ・・・ 君の若さに勝るものはないよ うん 」
「 本当にごめんなさいね。 キレイに治ってよかったわ。 」
フランソワーズには 003の目 など使わなくてもはっきりとわかっている。
博士の電磁メスでの治療痕は ほとんど痕跡を残してはいない。
タクヤはおそらく一生、自分の受けた治療には気がつかないだろう。
博士。 ありがとうございます ・・・
いやいや ・・・ よかったな、本当に
< 父と娘 > は深い笑みを浮かべ静かに見つめあった。
「 これからの君に活躍に期待しているよ。 頑張ってください。 」
「 ありがとうございます! 俺 ・・・ いろいろやってみたくて 」
「 うむうむ 若いうちに何にでもチャレンジしたまえ。 」
「 はい! 今 W・・・って振付家の作品に魅かれてます。 」
「 あ わたしもね〜〜 あの人の作品、踊ってみたいの 」
フランソワーズが明るい声を上げた。
「 ほう 高名な振付家なのかな? 」
「 はい。 なんか若い頃はダンサーだったそうですけど ・・・ 」
「 あら そうなの? 彼の振り付け、ステキよねえ 」
「 俺もそう思うよ。 パリでも有名なの? 」
「 わたしは日本に来てから知ったの。 ネオ・クラシック というのかしらね? 」
「 そうみたいだな〜 なんか想い出の人、みたいな作品があって
俺、古い雑誌で記事だけ読んで ・・・ 踊ってみたいなあ。 その・・・君と 」
「 まあ どんな作品なの ? 」
「 DVDとか探しているんだけど ・・・ 見つからないんだ。 」
「 もっと前・・ビデオとかあるかもしれないわね。 本人に問い合わせてみても 」
「 あ でも ・・・ その振付家、数年前に亡くなっているって ― 」
「 ― え ・・・? 」
一瞬 彼女の表情がさっと曇って見えた、と思った が。
バタンッ ただいまあ〜〜〜 ただいま〜〜〜〜
玄関のドアが甲高い声と一緒に大きく開いた。
― 次の瞬間
「 わ〜〜〜〜 タクヤお兄さん〜〜〜〜 」
「 きゃわ〜〜〜〜 タクヤお兄さん〜〜〜 いらっしゃい〜〜〜 」
ダダダダダ −−−− ・・・・!
盛大な足音と一緒に チビっこが二人駆けこんできた。
「 あ こら〜〜〜 二人とも〜〜〜 靴! 荷物も! 放りだして〜 もう〜〜〜 」
後から 茶髪の青年が両手に買い物袋を下げ 現れた。
「「 タクヤお兄さんっ こんにちは〜〜 」」
「 こんにちは すばるクン すぴかちゃん。
あ ・・・ オジャマしています 島村さん。 」
タクヤは 立ち上がると丁寧に挨拶をした。
「 やあ いらっしゃい。 どうぞゆっくりしていってくれたまえ。 」
「 ありがとうございます。 」
「 おじ〜〜ちゃま〜〜 ただいま〜〜〜 」
金色のお下げを振り回し女の子が 老博士の膝にすがりついた。
「 おお お帰り すぴかや。 美味しいオヤツを頂いたぞ〜〜 」
「 なに〜〜 おじいちゃま〜〜 」
茶色いクセッ毛の少年もへばりつく。
「 ほら〜〜 これさ。 」
「「 こ れ ・・・ ? 」」
子供たちは 目の前の黒っぽい萎びたみたいな物体を 目を丸くして眺めている。
「 あ 乾燥芋〜〜 これ 美味いんだぞ〜〜 」
若い父親が 笑顔で加わる。
「 あ 知ってますか 」
「 うん、子供のころ、よく食べたんだ。 ストーブとかで焼くとオイシイんだけどね 」
「 あ オーブン・トースターとかでも 」
「 いやいや ちょっと待っていておくれ。 チビさん達 手を洗ってウガイ、だろう? 」
「「 は〜〜い 」 」
「 あ〜〜ら いいお返事ねえ? それじゃすぐに洗っていらっしゃい。 」
「 うん! いこ、すばる! 」
「 うん 」
ぱたぱた・・・子供たちが出てゆき きゃいきゃい騒ぎつつ戻ってくる間に
博士が 平べったいモノを持ってきてテーブルの上に置いた。
「 なんですの? これ 」
「 ははは ・・・ まあ 卓上電気コンロ かな。 え〜と 餅網があるかい 」
「 ええ もってきますね あ ・・・ ジョー ありがとう。 」
さっと餅網が差し出された。
「 正月に作っただろ? ほら これを置いて・・・ 上に乾し芋を乗せて 」
「 そうそう ・・・スイッチ入れれば〜〜 」
わああ〜〜〜〜 いいにおい〜〜〜
うわ〜〜〜 ぷわ〜〜〜 だって〜〜〜
戻ってきたチビ達は たちまち乾し芋のトリコになってしまった。
「「 ちょっと待っててね タクヤお兄さん! 」」
オヤツでお腹いっぱいになった後、 双子たちは母親に連れられて子供部屋に行った。
「 ごめんなさいね、宿題、残ってるっていうから 」
「 あ 俺の方こそ・・・日曜日にお邪魔して 」
「 いいえ このコ達がいけないの。 すぐに済ませてくるわ ね、二人とも 」
「 うん! すぴか 音読だけ だもん。 タクヤお兄さん、すぐだから! 」
「 ぼ 僕 算数どりる おおいそぎ〜〜するから! 」
チビ達は < タクヤお兄さん > が 帰ってしまわないか気がきじゃない・・・らしい。
「 あは ちゃんと待ってるよ、すばるクン すぴかちゃん 」
「 わあい まっててね〜〜〜 」
「 ね〜〜〜 」
「 ほらほら 子供部屋に行きましょ。 あ ジョー。 お茶を淹れ換えてくださる? 」
「 オッケ。 チビたち ヨロシク〜〜 」
島村氏はキッチンに引っ込んだ。
「 タクヤお兄さ〜〜ん すぐだから〜〜 」
すぴかが またひょい、と戻ってきた。
「 ほら すぴかさん、行きましょ? 」
「 はあい〜〜 」
トタトタトタ〜〜〜 賑やかな足音が階段を上っていった。
「 あは ・・・ 元気ですね〜〜 」
「 いやあ〜〜 煩くてすまんねえ 」
「 賑やかでいいですよ〜 いい家族ですね ・・・
フラン・・・ソワーズさんって シアワセですね〜〜 」
「 うん? あの娘のシアワセ、それがワシの一番の望みだよ。 」
「 島村さん ・・・ 優しいし。 彼女、フランスの男性を選ばなかったんですね 」
「 ああ? いや・・・ははは アレはあいつの一目ぼれ だな 」
「 アイツ? 」
「 ジョーのヤツさ。 海辺で出会ったんじゃが ・・・
アイツは海から上がってきてフランソワーズに出会い ― その瞬間に ってな。」
「 へえ・・・ 先生もいらっしゃったのですか? 」
「 あ ・・・ ああ。 ワシも海岸に居ってな。 」
「 へえ ・・・ 」
な なんなんだ〜〜〜 古い映画みたいじゃね〜か〜〜
< 以下 タクヤの脳内映像 >
白い砂浜がず〜〜〜っと続いている。
青い空、そして遠くには突きでて半島の緑が見えその足元を波が洗う。
どこか房総付近の海に見えなくも ・・・ ないが ここは外国の海辺だ。
金髪のぐらま〜美女がビキニで寝そべっていたりする。
筋骨隆々な 胸毛紳士がさっと立ち上がり大股で海に入っていった。
「 わあ ・・・ すごくきれいね、お父様。 」
パラソルの下で白い水着の少女が目を輝かせている。
「 うむ いい気持ちじゃなあ 〜 」
白髭の紳士も柔和な表情で ビーチ・チェアで身体を伸ばしている。
「 波も穏やかなようじゃし・・・ ちょっと海に入ってきてはどうじゃな 」
「 え・・・だって日焼けしたら困るわ お父様。 」
「 レースの上着を羽織ってゆけば大丈夫じゃよ おっと帽子も忘れるなよ 」
「 はい。 じゃ ちょっと行ってきま〜す 」
「 うむうむ 楽しんでおいで 」
「 うふふ ・・・ 海〜〜〜 海ね♪ 」
少女は ほっそりとした白い脚で白い砂浜を駆けてゆく。
「 う〜〜ん・・・ いい気持ち♪ あら。 ビキニって着てみたいなあ
・・・ お父様はダメっておっしゃるわねえ きっと 」
帽子をぱたぱた海風にゆらし少女は波打ち際を歩いてゆく。
パシャ ・・・ン ・・・
ちょうどその時 海から一人の少年が上がってきた。
「 ふ 〜〜〜 ・・・ あ〜 さっぱりした〜〜 ふ〜〜 」
彼は濡れた茶色い髪をかき上げた。
「 次はもっと沖まで行ってみるかな〜〜 波も静かだし 」
サクサクサク ・・・ 彼は砂浜に足跡を付けてゆき ・・・
あ・・・? か カワイイなあ 〜〜〜
まさに a boy meets a girl の瞬間 だった・・・!
「 ? ・・・ はい? なにか御用ですか? 」
碧い大きな瞳が 不思議そう〜〜に少年を見つめた。
「 ・・・ あ あの ・・・! 」
くっそ〜〜〜〜〜 なんでソレが俺じゃね〜んだよ〜〜〜〜
「 君? 山内クン? どうかしたかね? 」
「 ・・・ 俺が海岸にいれば ・・・ 」
「 海岸??? 」
「 ― へ ・・・ ?? ( あ。 ヤベ・・・ )
あ あ ・・・ い いえ〜〜 あの! ここは海がキレイですね〜 」
「 そうじゃなあ。 ああ ウチの下の海にな、チビ達が一緒に行ってほしい〜〜
って言ってるぞ 」
「 お茶〜〜 どうぞ? 」
カタン カタカタ ・・・ ワゴンを押して島村氏がキッチンから出てきた。
「 あ ・・・ すんません ・・・ 」
う〜〜〜〜 なんだって俺はもっと早く生まれなかったんだ〜〜
「 ??? 」
ジョーは この青年の熱い視線に首を傾げるのだった。
Last updated : 02,23,2016.
back / index / next
********* 途中ですが
え・・・ 妄想青年・タクヤ君?? 楽しいヒトかも・・・
あと一回続きます〜〜〜 <m(__)m>